仕事帰り、久しぶりにスポーツクラブに寄った後、家までタクシーに乗った。50代はじめとおぼしき女性ドライバーは、1年前からこの仕事をしているという。「ちょうど景気が悪くなってからだから、大変」と言いながらも、彼女はすこぶる明るい。

「景気が悪いって、言い訳かも」と彼女。
仲間には、女性でも手取りで月に50万円稼ぐ人もいるとか。自分は休憩を取りつつ働くので売り上げは上がらない、と苦笑い。「気持ちにゆとりがなくなって運転するのはイヤだし、自分は集中力がそれほど長く続かないから」という運転手さんは、「今や宝くじ頼みですよ」とほがらかに笑う。

「お金があったら、もっと心にゆとりを持てるかも」と言う運転手さんだが、私にはもう十分、彼女には心のゆとりを持っているように見えた。苦境を不況のせいにせず、売り上げのいい同僚をねたまず、自分のペースで仕事をしている。なにより、明るい。

そこで、運転手さんにハーバード大の研究報告「宝くじが当たっても幸せ感は続かない」を披露した。大金が当たっても幸せ感は少しずつ目減りし、1年後には普通よりちょっと幸せ程度に減ってしまうとの報告で、以前この欄でも紹介している。

「そんなもんですかねえ。でも一瞬、当たったあ、と有頂天になりたいですよね」

それは同感。でもね、アメリカの経済誌『フォーブス』の超長者番付に載るような人は、決して精神的に幸せではなく、心にゆとりがないという調査もあるのだ。

嘆かず明るく、自分のペースできちんと生きている人がいる。そうした人と触れ合うと、心がふっとなごむ。日本のどこかに、そんな人たちがたくさんいるのだろうなと思うだけで、救われる。そんな人たちが生活に困らない社会にするために、頑張らなくちゃいけない人は誰だろう。