今、日本中が悲しみの中にある。
東北関東大震災の想像を絶する映像が繰り返しテレビから流れている。自分は一体何ができるだろう、と無力感を感じたり、不安にかられたりする方も多いだろう。
地震の翌日のこと、都心にあるホテルはひっそりとしていた。前日は帰宅できない人達であふれていたというホテル。私がレストランに行ったのは、地震で自宅のガスがストップしたままで暖房もなくお湯も沸かせず、食事が作れなくなったからだ。
レストランに入ってちょっと驚いた。いつもよりずっと親切で暖かい思いやりにあふれていた。ひとつひとつのサービスに込められた気持ちが伝わってきた。
まるで目の前にいる人が震災の被災者であるかのように。
そうか、と思った。人と人とはつながっている。遠くにいる被災者に自分が何もできない、と無力感に陥らず、今、目の前にいる人を被災者だと思って思いやりをこめて接する。その暖かさは、その相手からまた次の人へと伝わっていくはずだ。
今、自分ができることに目をむけ、暖かい波を伝えればいい。家族でも友人でも、仕事のかかわりのある人でも、道を歩く見知らぬ人でも、あなたが暖かい気持ちを込めて接することが、やさしい一言が、暖かい波になって人から人へと伝わるはずだ。
津波はこわい、強力だ。
でもそれをこえる暖かい波、思いやりの波をおこそう、と思う。
(この原稿は「婦人の友」5月号に掲載します)