夕食で使ったレンジ、必ず洗うでしょう。そのまま放置したら翌朝には汚れがこびりついてなかなかとれなくなる。使ったテーブルも同じ。拭いておかないと次に使えなくなる。花びんの水をかえないと花は枯れてしまうし、車を運転する方は、走らせる前にガソリンを入れる。
これらすべては「あたりまえ」のことだ。台所も食器も花も車も、使ったら「手入れ」する。使う前には点検する。なのにどうだろう。人は自分の体と心の手入れをしているかしら。
朝食を食べずに仕事に出かけるのは、ガソリンを入れずに車を走らせるようなもの。夜遅くまでパソコンやテレビをみて眼を使い続けるのは、やかんのお湯をわかしつづけるようなもの。エネルギーを補給しなくても、休まなくても車や機械のように止まってしまわないで働いてくれるのは人間のもつ適応力のおかげだ。
多少のことには黙ってがんばってくれるのが人間の体。でもそれをいいことに手入れをしないと、いつか故障してしまう。
こんな昔話がある。ある少年は12本の木を切ることができた。さあ、翌日はもっとがんばろう、とがんばるが10本しか切れない。その翌日、少年はもっとがんばったが8本しか切れない。首をかしげながらも夢中に仕事したがついに一週間後には1本も切れなくなってしまった。少年は師匠に相談する。自分はがんばっているのにぅまくいかないんです、と嘆く少年に師匠は一言。「おまえはいつ斧の手入れをしたかね」。
手入れは大切だ。今日一日よく働いてくれた体をきちんと休めよう。そしてたりないものがあったら補給し、使いすぎた部分はマッサージしたりちょっと手あてしよう。
体はもちろん心の手入れも忘れずに、いやな気分や疲れた心をそのままにしてねてしまわず、そんな思いを体から吐き出すイメージで深呼吸してみよう。
手入れする時間をないがしろにせず、きちんと使ってきちんと手入れするのが大切なのではないかしら、と思うのである。
2011年 婦人之友3月号