私は今、ハーバード大学でヘルスコミュニケーション関連の研究をしているが、最近興味深い報告を耳にした。それは若者の喫煙率を下げるためのキャンペーンである。

 アメリカではこのところ若者の喫煙率が上がりつつあり、それを防止するにはたばこに対する信念を変えることが必要だとされている。例えば、たばこを吸う人は独自の価値観をもち、自由で親や社会の権力者に反抗したカッコいい人間というイメージがある。一方、非喫煙者はいい子ちゃんで親や先生などの権力者や体制に従順な臆病者というイメージがある。この認識を新たなものに変えていこうと試みた。

 新しい認識では、喫煙者はたばこ産業という巨大な権力者のいいなりになっている人々、非喫煙者は独自の価値観をもち巨大産業の権力に反抗する人々、というイメージである。12から17歳の若者を対象にしたキャンペーンは効果があり、1999年から02年の間に若者の喫煙率は25.3%から18%にまで減少したという。

 アメリカではとくに権力にこびることが嫌がられるから、このキャンペーンは効果があったのだろう。かつてある有名なミュージシャンがビールのCMに出演したところ、大手産業という権力にこびているという理由でCDの売り上げが激減したそうだ。

 日本ではスターほど大手企業のCMに出演してそのギャラが話題になるけれど、アメリカでは考えられないという。企業のCMに出演するのを権力へのこびととるか、名誉ととらえるか、国によって意識はさまざまだなあと思うけれど、たばこに対する認識は両国とも共通しており、まだまだカッコいいととらえている若者が多いだろう。

 なにせたばこの広告費は年間178億円もかけられている一方、厚生労働省のたばこ対策関連予算はわずか3000万円。これではイメージチェンジは難しいだろう。

2008.11.16.sun