医療関係の仕事をしているAさんから元気に過ごしているという便りをもらい、15年ほど前のことを思い出した。そのころAさんは短大を中退後、体調が悪いと言ってほとんど家で寝たきりの生活を送っていた。
とくに疾患はないのだけど学校へ行こうとするとめまいがしたり気分が悪くなる。バイトも続かない。自分は体が弱いからという理由で毎日憂鬱な気分で食欲もなかった。
うつ病とよく似ているが微妙に異なるディスチミアと呼ばれる状態。いわゆる抗うつ剤などはあまり効果が上がらないし、うつ病ほどはマスコミも取り上げないから知っている人も少ない。だから往々にしてうつ病と診断されて投薬、休養という対処をされることが多い。しかしこの方法では効果が上がらないこともしばしばだ。
Aさんの場合は薬よりカウンセリングを主体にして自分が興味のもてることを探していくことにした。数年後、Aさんは4年生大学の通信教育を受けながら自営業の家業を手伝うようになり、両親の介護までするようになった。そして15年後の現在は医療関係の資格を取り、今度は人を手助けする生活を送っている。
苦しい思いを経験しているからこそできることがあるだろうと思う一方で、Aさんの成長は「仕事を通じて」培われた部分も多いように感じた。医療の仕事というのは、相手の立場に立って気持ちを想像したり、共感したりすることが不可欠である。
最初は仕事だからと仕方なく「相手の気持ち」を想像しているうちに、中立的な、自分中心でないものの見方も養われてくる。Aさんも仕事を通して自分を成長させてきたのだろうと、便りをうれしく読み返した。心の医療はスピード重視の今、恐ろしく時間がかかるように思われがちだが、世の中に一人、温かい心を伝えられる人を送り出した喜びを感じた。