今年のアカデミー作品賞を獲得した映画「ハート・ロッカー」は、ハーバード大の研究室でちょっとした話題になっていた。なにが話題だったかというと、映画の主人公に性格傾向だ。
普段、戦争映画や残酷な場面のある映画は絶対に見ないが、「見て感想を聞かせてよ」と言われたこともあり、自分の専門分野である性格傾向のことでもありで、意を決して見てきた。映画は、イラクで爆弾の処理をする兵士が主人公。彼は死を恐れず、あえて危険な場面に自分を追い込んでいく。
戦場で驚異的な数の爆弾を処理する有能な兵士だが、部下との関係はよいとは言えない。そして、問題となる彼の性格傾向である。見ていてなるほどと思ったのは、彼の性格が、アメリカで最近問題となっている「センセーション・シーキング」という傾向だということだ。
この傾向は、絶えずハラハラ緊張していないといられない、ゆったり過ごすことができず、車を暴走させたり、酒やドラッグにおぼれ死と隣合わせのところに自分を追い込まないと生きている実感がわかない、というもの。事故や犯罪につながることも多いので「センセーション・シーキングで死に向かうのはやめよう」というキャンペーンがテレビ放送されているほどだ。
映画の主人公は、まさしくこれに当てはまる。戦場にいないとき、彼はゆったりと過ごせない。戦場でも現場が終わると、彼は大音量で音楽を聴き、たばこをふかし、部下と殴り合いをしないでいられない。
一般社会では問題児のはずの彼が戦場では英雄。戦争でしか彼は生きた実感を味わえないのだろうか。アメリカ社会の心のひずみを描いている。戦争というゆがみが結果主義の国の生んだ心のゆがみと共存する皮肉が痛い。ゆったりと時を過ごせない若者は、日本でも増えている。問題は根深い。