理想の恋人から
ありのままの男女へ

 「この連載で4回目に取り上げた『ブリジット・ジョーンズの日記』、その続編が、日本でも公開された。「ありのままの君が好きだ」という彼の言葉で自信を得たブリジットが、自分らしく生きられるのか……という期待を受けて続編が作られたわけだが、この映画、恋人たちの「すれ違い心理」を、実に的確に表現している。
理由がないのが本当の恋。

 なぜ、好きなのかわからないというのが、真の恋愛。……なのだが、こうして突然、燃え上がった恋に夢中になる期間は、大体3ヶ月。それを過ぎると、さまざまな問題が表れてくる。お互いに「アレ?」と思う部分が出現するのである。

 お互いが「理想の恋人」と思っている約3ヶ月間は、問題点があっても見ぬふりをしていて、現実を直視しないものである。ところがそれを過ぎると、理想の恋人を演じきれずに、つい自分の地─ありのままの自分が出るものだ。

 しかしこれは健全なことで、そういつまでもありのままの自分や、本音を隠したままで理想の女性、白馬の王子を演じ続けていることはできない。恋人同士が理想の恋人から、ありのままの男女になり、お互いを受け入れ合うプロセスが恋愛の素敵なところなのだが、このプロセスがなかなかやっかいで、エネルギーを消耗する。
 恋人同士には、ほかの関係では決して生じることのない、いくつかの「すれ違い」が生まれるものだ。

その1 ほかの関係より相手に対する期待が大きいために起きる「すれ違い」
 友人関係や仕事の人間関係よりも、相手に「もっとわかってほしい」と願う要求が高くなる。そのために、その要求が満足な結果を得られないと、失望も大きい。一種の甘えでもある。ほかの人ならば腹が立たないで我慢できることでも、恋人だから「もっとわかってくれて、もっと大事にしてくれてもいいじゃない」という気持ちになる。

その2 相手にとって自分が「一番」でありたい、と思う心理から生まれる嫉妬と「すれ違い」
 恋人にとって自分が一番でありたい。だから相手の周りに、自分以外の異性がいることが、許せなくなる。

その3 甘えから生じる、ひねくれと「すれ違い」
 好きな相手に対しては、すねたり、甘えたりしたくなるもの。恋人相手だと、子どもにかえって、相手の気を引くために、すねたり、思ってもみないことをいってしまったりする。

その4 嫌われるのがイヤで、つい背伸びする
 相手によく思われたくて、思わずウソをついてしまったり、背伸びをしてしまったりする。

その5 本当のことをいえないことから生じる「すれ違い」
 自分が相手に愛を告白したら、相手に主導権を取られそうで怖い……。そう思って、どんなに自分が相手を大切に思っているかについて話したり、告白したりできない。そのことですれ違いになることもある。

恋愛において重要なのは
相手とのコミュニケーション


 このような「すれ違い」を、ブリジットと恋人のマークは、すべてやってのける。マークは、なかなか自分の本音を告白できない(イギリスの男性も日本の男性同様、ありのままの自分の感情を表現するのに抵抗を感じているのだ)。そしてブリジットはそのことで、すねて相手を困らせてしまう。また、彼女は自分自身が感じているコンプレックスのために、空回りしながら、マークの周囲の女性に嫉妬する。

 すれ違う恋人同士の心理というものは、客観的に見ると、「何をそんなばかなことをやっているの!」と、笑えるのだ。ところが、いざ自分のことになると、すれ違いのすべてを実行してしまうものである。だからこそ、時には他人のすれ違いを、きっちりと観察しておく必要がある。

 その意味で、本作品は、恋人のいる人には必見の恋愛セラピーといえるだろう。
 ところでこの映画で、ブリジットはついにマークとハッピーエンドになるのだが、この続きを見てみたい、という気持ちになってくる。

 というのは、現代の女性にとって「若さ」「スリム」というのは勝ち組の象徴なのだが、若さを失いつつ、スリムではないブリジットが、ありのままの自分を受け入れて、どのように結婚生活を送るのだろう……という興味がわいてくるのである。

 恋愛はありのままの相手を受け入れ、自分の本音を語り、心の底から相手とコミュニケーションをすることだが、そうした恋ができるのは、ごくわずかな人だけ。
 あなたはその狭き門をくぐることができますか?