幸せをつかむため
自ら運命を切り開いていく

 子どものころからなじみのある「シンデレラ」は、継母と義理妹にいじめられる、かわいそうな灰かぶり娘の物語だった。

 継母にこき使われ、文句一ついわず、じっと耐えている優しくおとなしい美しい娘が、王子様に見初められ、幸せになる。
そんな物語は、少女たちに、
「いつか王子様がやって来る。じっと耐えて、いつもにこにこしていると、いつか幸せがやって来る…」という夢を与えてくれたものだった。

 そんな夢と幻想を、元気良く一気に吹き飛ばしてくれるのが、ドリュー・バリモア演ずる「ニューシンデレラ」であった。私は、初めてこのニューシンデレラ物語である「エバー・アフター」を観たとき、あまりの痛快さに思わず笑い出したほどだ。おそらく、この映画をご覧になった方の多くは、私と同じような気分になるのではないかと思う。

 このおかしさの最大の原因は、シンデレラのイメージと、ドリュー・バリモアが、驚くほどミスマッチであるということだろう。
 従来、私たちが抱いているシンデレラのイメージとは、「色白で、ほっそりとしていて、口数が少なく、おとなしく、かわいらしく、従順な少女」なのだが、この映画の主人公ダニエルは、「剣術にたけ、たくましく、がっしりしていて、嫌なときには『ノー』といい、憎らしい義姉妹に殴りかかり、自分の気持ちをはっきりと表現する」のである。女が見て「カッコいいなあ」と思う痛快なシンデレラの登場である。

 ダニエルは山賊に襲われた王子を助け、王子をかついで窮地を脱出する。これに対しての王子は美形であるだけで決断が苦手、いつまでもぐずぐずと思い悩んでいる。この王子のペースに従っていたら、幸せは逃げていってしまうだろう……というわけで、ダニエルは通常の『シンデレラ』とは異なり、自分で運命を切り開いていくのだ。

 彼女は召使いや弱者に共感し、人に守られるより、人を助ける役回りの人間である。義母に虐げられ、やっかい払いにと商人に売り飛ばされたダニエルは、自分で闘って、この商人の元を逃れるのである。「いつか王子様がやって来る」と、待つだけの女ではなく、自分で運命を切り開いていくダニエルなのだ。

男は強くたくましく
女はかわいい方がよい?


 この映画を観ると、なぜこんなに気持ちがすっきりとさわやかになるのだろう。それは、私たちが従来「こうあるべき」と育てられた既成概念の鎖を、ダニエルがあっさりと外してくれることにあるのだ。

 わが国では、「男は男らしく。女は女らしく」と、子育てをする人が約半数以上といわれている。そして男らしさを表す形容詞として、
・勇気がある。
・決断力がある。
・自己主張ができる。
・勇敢である。
・意志が強い。
などが挙げられ、女らしさを表す形容詞として、
・優しい。
・おとなしい、おだやか。
・従順である。
・感情的である。
・弱々しい、子どもっぽい。
などが挙げられる。

 つまり私たちは、男は強くたくましく、女はおとなしくかわいいことがよい……として、育てられていたのであった。
 かわいい女の子は幸せになるけれど、自分の意志をはっきりと持ち、目的意識があり、意見を述べ、嫌なときには「ノー」と断る女の子は、「生意気でかわいくないから」幸せになれないという強迫的な思いにとらわれているものだ。

 実は筆者も、子どものころから「かわいげのない女の子」といわれてきたものだ。「かわい子ぶりっ子」はできなかったし、本音をいってしまうから、大人や男の子には敬遠された。
 だからダニエルが、自力で運命を切り開いていく姿に拍手を送りたくなったし、王子が彼女にひかれる過程では、「頼りない王子だけど、
ダニエルひかれるなんて見どころあり」などと思うのである。

 ……というわけで、この映画は、「かわいくないよね」と男性に評される女性、守られるより自力で生きていこうとする女性、頼るだけのかわいい女はイヤと思っている女性の皆さんに、ぜひ観ていただきたい一本である。