海原純子の医学講座
過食
 ダイエットをしているJ子さん、「食事に気をつけていても、突然甘いものが食べたくなってチョコレートを食べてしまったりするの。そのあとでガックリ。翌日、今日こそ気をつけるぞと決めるのだけれど、2〜3日たつとまた誘惑に負けて過食してしまうわ」と嘆きの言葉。 あなたも突然甘いものが食べたくなって、せっかくのダイエットを中断してしまうことがありませんか。

甘いものが食べたくなる理由

 それでは、どうして突然甘いものが食べたくなるかというメカニズムについて考えてみましょう。
 人間の食欲が脳の視床下部という部分でコントロールされていることはよくご存じだと思います。視床下部には摂食中枢と満腹中枢が存在します。 私たちが食事をすると、胃や腸で栄養が吸収されて血糖値が上昇し、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。すると視床下部の満腹中枢の活動が活発になり、満腹感を感じて食事を中止します。一万血糖値が低下すると、体脂肪から分解された遊離脂肪酸が血液中に増加し、空腹感を感じて摂食中枢が働き出し、ものを食べるというわけです。

 この視床下部の中枢を調節する因子には、神経伝達物質や消化管ホルモンなど40種類があるとされています。よく「急いで食べると過食になる」、「早食いはデブのもと」といわれます。これは食後血糖値が上昇しインスリンが最高値となるには30分かかるため、満腹感をおぽえる前に食べすぎてしまうからです。

 それでも単に「この中枢をおさえれば過食にならない」と思うのは早計。これが人間の複雑かつおもしろい(?)部分です。

 おなかがいっぱい、胃がいっぱいになったから食べなくなる、というわけにはいかないのです。それならダイエット食やこんにゃくを食べておなかをいっぱいにすればそれでよいわけです。ところがそうはいかないのは、人間の食欲全体を統制している最大の司令部は「大脳皮質前頭葉」だからです。 おなかがいっぱいでも、すてきに盛りつけられたデザートを見たら、どうですか、食べたくなるでしょう。好奇心のわく料理を海外のレストランで見たら、おなかがいっぱいでも食べてしまうでしょう。

 テレビでアイスクリームの宣伝をしていたらつい手を伸ばして食べたり、映画で食事をするシーンを観ると自分も食べたくなったり、電車に乗って旅行に行くと車内で食べてしまったりしませんか。これは人間の食欲が大脳皮質でコントロールされているゆえなのです。実際、新幹線でまわりを見回してみてください。通常の食事時間でないときに食べたり、飲んだりしている人が多いはずです。周囲の人が食べているとつい食べたくなるものなのです。

 失恋すると食べたくなる、イライラすると食べたくなるのも、大脳皮質の欲求なのです。ストレスがふえてイライラすると食べすぎる、甘いものに手を伸ばす、こうした大脳皮質の欲求のコントロールが必要であることがおわかりですね。

 「おなかいっぱいなのに、つい食べてしまう」、「ダイエットを始めても数カ月続けるとがまんできなくなってしまう」という悩みをもっているあなたのために、人間がなぜものを食べたくなるか、という点を考えてみましょう。ここでおぼえておきたいのは、血糖と脳の視床下部の問題です。

 血糖値が下がると、視床下部がそれをキャッチし、摂食中枢が働き出す。血糖値が上昇すると、満腹中枢が働いて食べるのを中止する。ものを食べ始めてから満腹中枢が働き出して満腹感を感じるまでに、20〜30分は時間がかかる。だから

・急いで食べない(満腹中枢が働き出す前に食べることになるから太る)
・ゆっくり噛んで食べる
・食事の最初はお吸い物、スープなどを飲むと過食を防げる

 以上に気を配ってください。過食を防ぎたい方は、お吸い物、コンソメスープを常備するとよいでしょう。手間をかけてもきれいになりたい、という方には、次の特製昆布だしスープをおすすめします。


処方箋17 Dr.純子の過食を防ぐスープ


・昆布5センチくらい
玉ねぎ、キャベツなど好みの野菜

 なべに昆布と水を入れ、20分ほど煮てだしをとり、これに玉ねぎやキャベツなどを入れて煮込んでスープにする。 好みの野菜で食物繊維を食前にとることにより、食事の余分な脂肪などの吸収を妨害することも可能になります。

 このとき、有機栽培の野菜を使うとよいでしょう。青梗菜、小松菜などもおいしいですし、カルシウムの補給になります。玉ねぎはビタミンB1の補給になり、エネルギー代謝を良好にするのでおすすめです。 こうしたスープを食前に飲むことにより、満腹中枢が活動するまでに過食することを防ぎましょう。

脳をコントロールして過食を防ぐ

 さて、人間の食欲は、視床下部だけでコントロールされているのではなく、その元締めは大脳皮質前頭葉であることも前節でお話ししました。

「おなかがいっぱいでも、おいしそうなデザートがあるとつい食べてしまう」、「イヤなことがあると食べてしまう」、「することがないと食べてしまう」というのは、人間の食欲が単に血糖と視床下部だけでなく、大脳でコントロールされているからです。つまり、大脳皮質をリラックスさせ、満足した状態にしておくことが過食を防ぐために不可欠な条件といえます。

 ちょっと思い返してみてください。とても幸せな充実した気分のとき、やたらとムシャムシャ食べたくはならないはずです。仕事も充実している、ボーイフレンドともうまくいっているとき、過食になりましたか?

 何か不安なことがある、仕事でうまくいかない、ボーイフレンドとケンカした、親と争ってしまった、ひとりぽっちでさびしい、仕事や、しなければいけないことがあるのにどこから手をつけてよいかわからない、そんなとき過食に陥るのです。つまり大脳皮質をあなたがコントロールできない状況になると過食に陥ると思ってください。

 ひとりでの「ながら食い」も中止します。テレビを観ながら食べる、雑誌をばらばらながめながら食べる、こうした行為は過食の引き金になります。
次に、過食のカルマを断つ大脳皮質コントロールとしての行動修正について考えてみましょう。「食べたい」と思って、それが過食の引き金になりそうなときは、好きなCDなどをかけ、大脳皮質の衝動をおさえてください。ミントティーやラベンダーなどのハーブティーを飲むと衝動は軽くなります。

 行動修正は、大脳皮質の衝動を「食べる」ことから「他」へ向けるための第1ステップになります。次に、行動修正のパターンについてご紹介します。食べたいと思って、お菓子に手が伸びたとき、次の行動に修正してみてください。

・スーパーモデルの写真が載っている雑誌を見る
・旅行の本、写真集など好きな本を読む
・散歩に出かける
・誰かに電話をかける
・お風呂に入る
・歯をみがいてしまう
・手紙を書く、日記をつける
・ 本屋に出かける

 ところで、女性は生理前になると、普段より20ないし30パーセント食べる量がふえてしまいます。これは、月経前症候群(PMS)のひとつで、黄体ホルモンの影響でイライラするために大脳皮質のコントロールがきかなくなってしまうのです。このようなときは、過食の行動修正を心して試してくださいね。

女性特有PMS(月経前症候群)の時期は要注意

 生理前というと、甘いものが食べたくなることがあります。チョコレートが食べたくなったりすることも多いでしょう。

 なぜ甘いものが食べたくなるのでしょう。生理前もそうですが、イライラしたときに甘いものがほしくなるのは、実は私たちが脳のエンドルフィンを求めているからなのです。脳が生産するエンドルフィンという物質にはモルヒネに似た鎮痛効果があり、心の解放感を与えてくれます。

 アイスクリームやキャンデー、チョコレートのような甘いものにはエンドルフィンを生産する働きがあるのです。ストレスがたまるとアイスクリームが食べたくなるのは、実はアイスクリームが食べたいというより、むしろエンドルフィンを求めているのです。デイエットしているときに限って甘いものが食べたくなる理由もそこにあります。

 私たちの食欲はさまざまな神経伝達物質によってコントロールされていますが、ダイエットで朝食抜き、昼食も少なめという状況が続くと神経伝達物質のバランスがくずれてエンドルフィンの必要が増加し、甘いものに手が出るのです。甘いものは急速に血糖値を上昇させ、インスリンを分泌させます。インスリンの働きで今度は急激に血糖値が下降するために、また甘いものに手が出る、チョコレートやケーキ、アイスクリームは食べるのに時間がかからないので、つい過食になる、こうした甘いもの食べたさの悪循環ができてしまいます。

 エンドルフィンを求めて甘いものを過食しないためには、ダイエット中も朝、昼食を低カロリーにおさえつつしっかり食べる、このルールを守ることです。
もうひとつおぼえておきたいことは、人間が憂鬱になっているとき食べすぎるのはセロトニンのため、という点です。

 所在なく、憂鬱な気持ちになっているとき、血中のホルモンであるセロトニンが下降します。すると炭水化物をやたらに食べたくなるのです。炭水化物を食べるとセロトニンが分泌され、安定した気分になります。

 セロトニンを求めて炭水化物をとりたくなったときには、砂糖を使わないレーズンクッキーなどをとってみては。

 さて、過食のカルマを断つ方法とメカニズムについてお話ししてきましたが、最後にひとつ、買い物の方法についておぼえてください。

・食料品の買い物はおなかがいっぱいのときにする
・買いだめはしない。面倒でも1〜2回分しか買わない
・ メモしたものだけを買う

 過食のカルマを断つ大切なポイントのひとつは、買いすぎないこと。余分に買ってがまんするのはむずかしいですからね。