海原純子の医学講座

「何を、どのくらい食べたら体にいいですか?」
「どのくらい運動をすればいいでしょう?」

 そんな質問をこのごろよく受けるようになりました。
健康、美容ブームというのでしょうか。新聞でもテレビでも雑誌でも、「健康にいいこと」特集や「美容にいい食べ物」関連の内容があふれています。
いちいち実行していたら、もう疲れてしまいそうな気がしますが、本当は、自分の体が何を必要としてい るかは、本人が一番よくわかるはずなのです。
それがいつの間にか、情報が先にひとり歩きして、情報に振り回され、頭で考えすぎて、
「体がこうしたい」
という体の欲求を抑えつけている人が多いような気がしてなりません。

 私はそんな方のために、いつもペンシルバニア、ロゼトの町の話をご紹介しています。
 アメリカのペンシルバニア州にロゼトという町があり、この町では心筋梗塞 や狭心症にかかる人が極度に少なかったのです。

 疫学者たちは、この町の人々は、きっと食事の脂肪や塩分が少ないのだろうと考えて調査をはじめました。 ところが実際に調べてみると、疫学者たちの予 想は裏切られたそうです。 ロゼトの町の人々の食事の脂肪や塩分の量は決して少なくなくて、他の町と変わりはなく、脂肪の摂取量はむしろ他の地域より多かったのです。

 それでは、なぜこの町では心筋梗塞など動脈硬化性疾患が少ないのか、学者たちはさらに調査を続け、ついにその要因を発見したのです。
 それは、「人々のつながり」でした。この町では人々の連帯感や結束が強く、 食事を分けあったり、共に食事をしたり、というように食事をするときの一体感が強かったのです。つまり、
 何を食べるか
 ではなく、
 いかに心地よく食べるか
が健康にとって必要かつ大切であるか、が判明したのでした。

 頭で「何を何グラム」と考えるより、体が必要だと感じたもの、食べたいものを心地よく、気分よく食べることが健康にとって最も大切なのです。
 ところが、最近は「体」がずいぶん軽く見られ、「頭」のコントロールで体をすべて支配してしまおうというような考え方が広まっているように思います。

 私は時々びつくりするのですが
「水を一日にどのくらい飲めばいいでしょう?」
というインタビューを真顔でする人がいるのです。
 ミネラルウオーターを飲むのは、その日の大気の乾燥の具合や、体調によって日々異なります。 乾燥した室内にいるときには、水を飲む量は増えますし、 梅雨のシーズンなどでは減るものです。

 のどが渇く、という感覚に気づいて人は水を飲むのであって、「一日にこれだけ飲まねばならない」と頭で考えて飲むのではないはずです。水を飲む畳まで頭で考えなければならないほど、体の感覚をなくした人が多くなっているのでしょうか?
 これはかなりおそろしいことです。
 体を軽視してはいけない。
 体をあなどってはいけない。
 頭で体を支配できると考えるのは誤りです。
 心は体に影響を与えますが、それと同じように、体を軽視したり、体をあなどっていると、心に影響を与えてしまうのです。

 たとえば、せまい室内でじっと同じ姿勢できゆうくつに過ごしていると、気分はうつになっていきます。 反対に体をのびのびさせて動かすと気分も軽くな るものです。
 空腹でたまらないときにはイライラしてケンカが多くなります。 反対に、おいしいものをおなかいっぱい食べると幸せな気分になるものです。

 アメリカの精神科医は、
「空腹のときに、ものごとを決定してはいけない」と言っていますし、
「気分がうつになったときは体を動かしてみるといい。 体の動きと共に気分も動く」 とも述べています。

 いずれも「体」の状況が「心」に影響を与えることを表現しているのです。
 空腹や睡眠不足、トイレをがまんしているときなどに、私達は集中してものごとを考えることはできませんし、幸せな気分になることもできないのです。心を元気にするために、体を心地よくさせることは大切なことです。

 無理矢理、体をがんばらせるのではなく、体の欲求や、あなたの体が、こうしたい、と言っている声を聞いてみましょう。 人の体はみなそれぞれちがいます。

 一般的にいわれる「体にいいこと」にしばられるのではなく、あなたの体がしてほしいと言っている声を聞いてみてください。 そして体を抑圧するのではなく、のびのびと心地よくさせてあげてください。
 頭にいっぱいになった情報で体をコントロールするのではなく、体が本当に心地よくのびのびできるように、身近で簡単なヒントをご紹介しましょう。

 私は西洋近代医学を学びましたが、そうした近代医学だけでなく、 アロマテラピーやアメリカのオステオパシーなどの知識も加味しながら体を心地よくさせる知恵をお話しします。

 体を元気にさせるには心を元気にすることが大切。
 そして、
 心を元気にさせるためには体を心地よくさせることが大切。
 心と体はまったく対等に影響を与えあっているのです。
 そして、さらにもうひとつ、心や体を元気にするためには、 自分らしさを生かして生きることでしょう。 自分らしく生きる目的を持ち、それに向かって進むことが心と体をいきいきさせてくれるのです。

 体をよく知り、体を心地よくさせてあげましょう。体を痛めつけるのをやめて、体を気分よくさせてあげると、あなたの心は、きっと幸せな気分になるはずです。

 私はストレスなどで調子を崩した方の診療をしていますが、精神的なカウンセリングだけでなく、ボディケアを併用して体の調子をよくすると、精神的な落ち込みがかなり改善することを実感しています。
 体に親切なことをしてみませんか。
 きっと幸せな気分がやってくるはずです。